【人月ビジネス構造も解説】 LLMでIT(SI)業界が崩壊って、実際どうなるの?
※本記事は、2026.03.05時点での推測です。3年後くらいにどのくらい合ってたか答え合わせすんのも面白いかもですね。
生成AIの登場で、エンジニアの仕事がなくなるらしい
いやさすがにゼロにはならんやろ。
なんかたまーにSNSで見るんだよな。エンジニアが全滅する系の話。大方は詳しくない人が言ってる感じだと思います。人間って、自分に都合いい仮説を信じたがるじゃん?エンジニアを恨んでいる人がけっこういるのかもしれないねぇー。Webサ全盛のころ、めちゃめちゃイキッてたからね。(しかもWebサ関係ないフリーとアフィカスがな。)
また、【AIで作ってみた! 簡単だ! エンジニアは滅亡する!】系の話も、どうもね...。
ワイ、20年くらいIT業界いる非エンジニア職だけど、システムなんぞ全く作れる気がしないんじゃがね....。
私はITリテラシーは高くはない側の人間ですが、その私がAI使ってマトモなシステムを作るぞ。と考えたとして、かなりの学習をしたととしても実行は難しいかなと思います。特に、そこそこの規模のシステム開発を企業から請け負う様なビジネスの場で、素人の私がどう契約に対しての責任を取るのか全く分かりません。
めちゃくちゃちっさなツールや、Webサイト的なものであれば別かもですが、それらは一般人でも作れていましたからね....。なんかちょっと【ITエンジニア】の定義自体が違いそうです。
とはいえ、マイナスの影響がない訳もない。
下層部は甚大な被害になるかと思います。詳しくは後述。
上層部でもそれなりにヤバいです。
会社や社会では、上層部の給与が下々の奮闘により支えられていたりもしますから....。下々が崩れ落ちた際にはもう支える者がおりません。
なお、ほぼ単品派遣で、それがそのまま給与に直結と言う形であれば、さほどの影響はないはずです。しかしあくまで、激烈な競争にならなければです。いざ本気の競争になった場合、商流が上位の会社の人間が先に椅子取りゲームの勝者になる構造ですので、商流がモノ言う世界になると思われます。純粋派遣会社の場合と違い、再委託前提のSESでは単品派遣&個人主義は商流を深くしてしまう要素になります。『SESからSESになら無限に転職できるぜ!』って自信は、おそらくほとんど身を守らないと思います。
人月ビジネス構造て、そもそもなんなんじゃよ?
システムインテグレーターとその下請けソフトハウスの業界構造。さらにSESの業界構造。
このあたりの話が下敷きになります。
25年の年末くらいに書いた記事ですが、上記の企業群の業界構造に関して触れていますので、『なーんもわからん』と言う方は、まずはこちらの記事を先にどうぞ。(別タブで開けます)
2025.12.24
【業界全体MAPアリ】 『SESは避けたいが、SIには入社できない。』その【中間あたりの会社】が見えなくなってる問題
さて。
要は頭数を集めた会社が儲かると言うIT業界特有(?)のビジネス構造
『ああ、知ってる知ってる。』
多くの方の反応がコレなはず。
たまに、多重請負構造と紐づけてイメージしてしまう人もいますが、人月ビジネス構造とはあんまし関係ないかなと思います。そのほか、準委任・請負などの契約もあんまり関係ないです。
この話の原因はおそらくSIer等システム開発ベンダーの見積の方法にあります。
『一名当たりいくら』×『何人』×『月数』と言う見積の慣習
いろんな見積方法はあるのですが、だいたいこれが一番メジャーなんじゃないですかね。
人月は悪!海外ではそんなやり方しない!SIerもない!SIガー!ってな主張もみますが、人月の神話ってワードもあるし、書いた人アメリカ人だし、なんならIBM出身だし、IBMて外資のSIerだしで、海外でも人月ってあるんじゃないの?知らんけど。(人月の神話は生産性の話だった気がするが)
ともあれ、人月計算による見積が日本においてメジャーなのは、『わかりやすい』ってのが主な理由じゃないかなあと思います。
クライアントの事業会社さん、システムなんか詳しくない訳でして、『なんでこれがこんな高いねん!』ってなりがちかなと思いますが、人月計算による見積は『このくらい人件費がかかるんですよ』と言うのがとても理解しやすく、納得させやすいんだろうなあ...。とか思ってます。これが良い点ですかね。

悪い点としては、『一人あたりいくら』と言う儲け方になっちゃうところでして、『わかりやすい』のも影響して、『比較しやすい』『値段を上げづらい』『相場感を構成しやすい』あたりがありそうかなと。東証プライム上場の大企業の社員が一か月で稼ぐが粗利額が、100とか150とか。エースでも200そこらが限界と言うのは、さすがにまずい訳ですよ。
そこで、うまいことを考えます。社員を複数のプロジェクトに分散し、代わりに外部ベンダーやSESのエンジニア等を利用。自分たちは主に管理に回ることで、『社員一人当たりの粗利額』の上限を取っ払うことができます。下図では、プライマリーの社員は2名で総勢11名分の売上に関与します。 この図だと社員一人当たりの月の粗利額は、400万くらいかな?(雑)
社員は複数プロジェクトに分散されますので、複数のプロジェクトで同様の利益が上がることに。しかし、社員の数は変わっておりません。
これが、SIが完全内製化しない理由ですね。それやると儲からない。食えないからです。
※なお、コンサルファームに関しては、一名当たりの利益が取れているので、さほど外注を使うビジネスモデルにはなっていない。

上層の儲け方・下層の儲け方(頭数の集め方)
上層の儲け方
先の図は、人月ビジネス構造下での『上層での儲け方』をそのまま表しています。
上層のベンダーの特徴は、クライアントに対し責任を負うこと。『成果物を担保』しなければ切られます。請負だ準委任だは関係なく、クライアントニーズがそれなんだから、やるしかないです。代わりに、人員配置などの権限を得る点がもう一つの特徴です。要はクライアントは『成果物を担保』できればあとはどうでもいいってことですね。そりゃそうです。
責任を負う分、ガバガバの人員投入はできませんが、権限によって自社の新卒や外部人員を投入する事ができます。外部人員に関しては基本的に即戦力者のみの募集とし、雇用リスク・採用/育成コストは回避でOKです。(又は、図の緑のチームの様に、担当範囲の責任を負わせてしまうでもよし。管理コストも下がり、なお儲かる。)
つまり、【増員枠を用意する】そこに【人を借りてきて頭数を揃える】が、人月ビジネスの市場に合わせた『儲け方』となります。
下層の儲け方
下層のベンダーやSESの特徴は、責任を負わないこと。実スキルが低い人物を派遣したとて、派遣した瞬間に売上がほぼ確定します。下層ほど他社とは案件単位の付き合いで、リピート受注を重視する動機もありませんので、準委任で契約し『成果物を担保しない』立ち回りで、さほどの問題は発生しません。この環境での最適解は『とにかく雇いまくる』かつ『稼働率を上げる』となります。
また、市場から要求される『質』の部分もやや特殊で、実スキルよりも【経歴書の経験年数】と、【若さ】が優先されるという背景があります。実スキルを優先したとしてもさほどのリターンは得られません。上層とは採用ターゲットの要件が異なるという事になり、本質的には競合しません。これも活かせば有利な要素となります。
ですので下層では、【工夫して採用ハードルを下げる】【雇って頭数を揃える】かつ、【稼働率を高くする】が、人月ビジネスの市場に合わせた『儲け方』となります。
・飛ばしていい解説。
『採用しまくる』上では、未経験者の採用が最も安価かつ大量な採用ができると言う事になりますが、SES側には人員配置の権限がない分、派遣するハードルは高くなります。このトレードオフの関係とどう向き合い、対処するかで、SES会社ごとの流派が分かれる感じです。
1.右から左のSES 大量採用を捨て、営業力で他社人材やフリーランスを仲介する、営業主体のSES
2.高還元SES 営業力(コスト)を捨て、その分、エンジニアへの支払いを増やし、未経験を避けつつ大量雇用を目指す。 多くの場合、1の右から左の会社の営業力に依存する。
3.ロースキルSES 未経験を大量採用し、未経験OKのロースキル案件へ大量派遣する。営業力は要求される。
4.少数精鋭SES 下層の儲け方自体を捨てる。少数を採用し、育成も重視するが、正直なところ競争不利。 下層の請負会社などもこれに近い。
5.職歴詐称SES 支払う給与は未経験者相当。得る報酬額は経験者相当。決定率・稼働率も高めになるかと。超儲かる究極のSESですが、違法です。
これらの『儲け方』への、LLMの影響
さて。
まず、上層への影響です。
LLMは、プロジェクト規模(頭数需要)の縮小をもたらします。
上層の儲け方は、【借りてきて頭数を揃える】でしたが、投入できる頭数自体が減少します。 この状態では稼働する外部人員の数が減りますので、社員一人当たりの粗利額も減少する事になります。これ、どストレートにマズいですよね?

対策はいくつか考えられます。
・見積もりを人月でやらない。
・SaaSなどに主力を転換する。
・1名のPMでより多くのプロジェクトを担当する。
いずれも簡単に実現できるものではなく、やや時間がかかりそうです。
日本の大手SIerともなれば、これまで最高益を更新しまくるなど絶好調でしたので、各社、かなりの利益剰余金を確保してあると思われ、ビジネスモデルの転換が完了するまで潰れる事は無さそうです。 しかし一時的に利益は減少するでしょうし、また、外注への発注もかなり減るのではないかなと思います。
続いて、下層への影響です。
こちらは、『実スキルは軽視して、とにかく雇いまくる』かつ『稼働率を高くする』が、基本的な勝利条件でした。LLMによるエンジニア需要の代替は、特に若手ロースキル層~中級者未満に襲い掛かる事になり、稼働率に深刻な影響が予想されます。この時点で甚大な被害の発生が予測できるかと思います。
また、商流が深いのも問題です。上層が一時的にでも外注への発注を減らしてしまうと、業界内で椅子取りゲームが勃発します。この時の椅子取りゲームは、商流上位が一方的に有利に椅子を奪う事が多いものとなります。
ロースキルが多いSESは直撃で稼働率が下がり、大打撃となるイメージがしやすいです。 高還元SESも営業コストを給与に転換してしまっている構造上、営業面では不利で、商流が高くない会社が多くなります。(そもそも売上額ではなくマージン率で訴求すると言う発想自体がそこからきている。) 実際に還元しているとしたら、利益剰余金の額も少なくなる為、体力にも問題があるという事になります。少数精鋭型に関しては、被害が限定的かもしれませんが、なにしろ小規模ですので、こちらも営業力・体力次第です。
ただし、SES業界は今までもなんども不景気を乗り越えてきていますし、もともと会社の入れ替わりも激しい為、業態の変化の速度も極めて速い業界です。ある程度時間が経過すれば、その時点の市場構造にフィットした新型SESが発生、また盛り返していくんじゃないかなと思います。(それがどんなビジネスモデルかは想像もつきませんが。)
短期的には、上層・下層共に甚大な被害が予想される。
これもう、短期的に起こる市場構造の大きな変化と、その時の一時的な影響が怖いちゅう話なんよ。
しかも、事前の対策が打ちづらい。
今現在、『市場変化への対策を行わなければならない』と、IT業界のほとんどのプレイヤーが考えていると思います。
例えばさきほどの、
・見積もりを人月でやらない。
・SaaSなどに主力を転換する。
・1名のPMでより多くのプロジェクトを担当する。
あたりの話になりますが。
最終消費者である事業会社が、これらの対策に付き合ってやる強い動機と言うのは、今のところありません。
発注できるベンダーがまったくいないと言うレベルまで事態が進めば、これらの対策にも付き合ってやるしかなくなりますが、IT業界全体が一度に足並みをそろえることができるかと言えばまず難しいと思いますので、当面の間は、≪対策したくてもできない≫と言う状態に、ほとんどのプレイヤーが置かれることになります。
この、遅々として危機に対処できないプレイヤーたちに対して、LLMによるエンジニア需要の代替と言う市場変化が襲い掛かることになります。しかも厄介なことに、LLMの進化がとても高速です。LLMを導入すればビジネスモデル上、被害が出ると言う事はみな理解していますが、競争に負けてしまえばそのあとすらありません。どのプレイヤーも、タコが自分の足を食ってる自覚はありつつも、積極的にLLMの進化を追い、随時導入する立ち回りになります。ブレーキは無いのです。
ほか、LLMの進化の先が読めないという問題もあります。
転職による業界の脱出や、異業種との提携、積極的な多角化など、根本的に人月ビジネス構造の仕事から別の構造へ切り替えてしまう対策も存在しますが、切り替えた先の業態が無事で済むかと言うのはまだまだ分かりません。 投資をした分、残り体力を減らしてしまい、本来耐えられた企業が崩壊すると言う事も起こるかもしれません。
LLMの仕組み、得意不得意はある程度想像できますので、LLMと競合しづらいビジネス構造を推測し、そこへの転換と言うのは現時点でも可能ですが、まあまあビジネスセンスを要求される判断になるかなと言う印象です。
有利な会社
ある程度の傾向として、≪商流が高め≫で、≪少人数で平均スキルが高め≫または、≪技術が古め≫であれば有利と言う事は言えるかもしれません。
≪商流が高め≫は、前述のとおり、椅子取りゲーム勃発時に有利である可能性が高いです。
≪少人数で平均スキルが高め≫は、そもそもAIと競合しないレベルの人材が多数であれば、需要減の影響を受けづらいという話です。
≪技術が古め≫ですが、これは主な収益源となっているシステムが古いと言う事です。
淘汰の波は、新しい環境から古い環境へ伝播していく
すでにある古いシステムの運用をなるべく自動化しようとしたとして、そこに技術的な問題が立ちはだかる可能性は高そうです。また、すでに枯れているシステムの運用に、現在多額のコストがかかっているとも考えにくく、このシステムの運用を自動化するコストメリットが薄めであると言う事も言えそうです。 古いシステムのリプレイスはいずれは起きますが、それまでの間は遅々として環境が変化せず、エンジニアの需要も減りづらい領域となるのではないかなと推測できます。たぶん10年くらいかかんじゃないかな...。
SESなんかは、主にこの辺の領域で生存していく感じになるんじゃないかなぁとも。特定の領域に縛られないのもSES業態の強みですからね。
逆に、新しい技術と言うのは新規開発プロジェクトで使用されることが多く、何もないところからスタートするのでAIエージェントを使用した省力化された環境と言うのを作りやすいと言えます。このような新規メインの環境から、激変に飲まれていく展開となるかと思います。真っ先に人員需要が減る訳ですので、あるのは競争だけですね。
では、
古い環境の方に逃げれば安全か?
と言いますと、これは短期的にはYesですが長期的にはNoと言う所で、5年後・10年後、世間がAIエージェント前提の高効率な開発体制に移行しきった中、唐突に原始時代の人間がそこに放り込まれるという展開になりますね。これはさすがに、ほぼ確殺かと思います。
収益源となっているシステムが古い会社も、会社全体でそれだけをやっている訳ではありませんので、一方では新規の開発体制に対応しつつ進んでいく10年になるかと思います。これらの会社の長期的な生存の可否は、古い環境を担当しているエンジニア達がどの程度危機感を持ち、新規の開発体制に対応する用意をしていくかで差が出てくるんじゃないかなーと推測します。
なんだけど、けっこう、人の種類が違うんだよね...。経営側も悩ましいところでしょう。
まとめ
そういう訳で、長期的には【マトモなエンジニア】は、なんだかんだでだいたい生存。
縦のスキル伸長を軽視し、コード書けりゃ一生食えるんだくらいに考えてた層はだいたい壊滅って感じじゃないですかね。
短期的には【ほとんどのエンジニア】がなんらかの影響を受ける。競争状態に突入するという感じになるかと。
ただし【古いシステムのお守り】を担当している人たちは、現場の外で何が起きてるかを全く感じることもなく生き延び、10年後に多数が詰む。
そんな感じになるんじゃないかと予想します。
また、商流やスキル平均値が大事とか書いてますが、安牌かって言うとそこまで安心できないと思っていて。
そもそもこの業界のタチが悪い会社って、普段からウソつきまくりなんですよ。
彼らが座して死を待つかと言うと絶対そんなことはなく、やっぱりウソつきまくって仕事がある領域に参戦してくると思います。
結果はだいたい見える話ではありますが、そうは言っても短期的な競争の期間に、彼らが競合となり、ある程度失注も発生してしまうだろうという点が厄介です。ホント、めんどうくさい話ですねぇ。
書いた人…寺野 克則
技術的な話もするのでエンジニアと思っている人が多いけれど、実際には営業系の経歴。(Twitterも【寺野 克則(ITだけど営業視点のアカ)】と、営業系を押し出しているのに。サムネ画像の印象が強すぎるのか。) 商品は【会社の技術】なのだから、商材を知らなすぎる営業ってふつうはあり得ないんだよ。論外。 ITには20年くらいいて、その前は法人向け通信機器販売。アレ系。 転職回数がめちゃ多く、それによりさまざまな業態からIT業界を見ることに。サービス・人材派遣・人材紹介・SES・ソフトハウス。 派遣で工場行ったこともあるよ。 リーマンショックがトドメとなり、営業としてまっとうな企業に正面から入社できる確率よりも、自分で作った方が確率高い(リスクも低い)なってことで起業。 業界の知見だけはあるのでそれを活かしてWantedlyブログやTwitter。まあまあバズったのと、ほかにもいろいろで、自前ブログに記事を載っけていくことにした。
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