IT業界って、今もまだ多重請負構造なの? (2024の記事のリライト)
『IT業界は多重請負構造で、本人までの間にとんでもない額の中間マージンが抜かれているんだよ。』
という話がSNSなので出たりしますと、反応はだいたい...
- 『そーだそーだ!』
- 『ンなわけあるか。ねーよ。今は』
- 『Web系ならどうたら』
の、3パターンですかね。このやり取りが無限に繰り返されています。
現実に即したところの話をすると、『原則、無い』のだが、『あるっちゃ、ある』と言った感じの話に。(なんじゃそら)
今日はその辺の解説記事です。
人材紹介の人も知らないし、ネットで語られる事もほとんどないのだが、IT業界にいる人だったら『なるほどなー』と納得できる内容のハズ。これからITに来るつもりの人にも役に立つかもしれない。
1.(基本的には) 『無い』側の話。(いいとこにいる奴ら)
『いいとこ』というか、ふつう?
他の業態をDisって転職希望につなげたい系の人材系アフィリエイターさんらには、10年近くDisられ続けているので、本人たちには≪いいとこにいる≫などと言う自覚は無いし、待遇も普通である。別に入社ハードルも高くはない。
なんでそんなところにいるのに多重請負構造の存在を感じないのか。
その問いには、法律でNGだからという至極当たり前の理由が出てきます。
法律的にNGという話。
例えばですな。下記の様に顧客側のリーダーが準委任の外注さんを直接指揮管理するケース。

違法ですわな。
違う会社の人(やフリーランス)に指揮命令をしてしまうと、準委任契約ではなく派遣契約であるとみなされます。偽装請負ってやつですね。
では、派遣契約ならばOKか? 多層化するのか?
これも、多層にしちゃうと違法。(職業安定法違反)
こちらは厚労省の資料へのリンク
すので、下記やサムネイル画像のようなケースは、かなーりイレギュラーな状態と言えます。

さらに言うと、いわゆるSIerとそのパートナー企業の業界は、偽装請負問題に関して2005年前後で行政より徹底指導を受け、現在では
・再委託回数の制限(階層深いのNG)
・社員を含まない再委託(丸投げ)NG
・一人請負(準委任も)NG
と、多重請負構造にならないようなルールが設定されていることが一般的です。(発注するSIer側がルールを設定している)
なので、少なくとも【SIerが多重請負構造にしている】とかいう話は無いんですね。
ネット上で意外と多い言いがかりで、ケンカになるポイントその1と言えるでしょう。
ビジネス構造的にNGという話。
そもそも『システム』というモノは、そこそこ規模がデカいものが多く、1名で作るものではない上、その開発に参加する者にはそれなりの専門性が要求されます。なので、内製化って簡単じゃない。一線で通用するエンジニアやリーダー格を直接採用、育成するとか、現実的にはけっこう難しい。
なので、エンドユーザーはふつうベンダーに対して、自前で管理が必要な労働力の提供を求めるのではなく、完成品のシステムの提供を求めることになりますよね。(飲食系の企業が多店舗展開狙うからって、自社で大工さんを雇ったりはしないよね。)
つまり、システム開発は基本的に『派遣』ではなく、『会社対会社』の、チーム規模前提の話になるという事です。

SI商流では下記の制限がつくわけですので、プロジェクトの構造も下図のようになります。
※制限
・再委託回数の制限(階層深いのNG)
・社員を含まない再委託(丸投げ)NG
・一人請負(準委任も)NG

- SIer(プライマリー)は、顧客に対して納品の責任を負い、超上流・プロジェクトマネジメント全般を担当
- その下請けベンダー(セカンダリー)はプロジェクトの主力として上流から納品までを担当
- 3次請けベンダーは、特にプログラム製造周辺の工数が膨らむあたりで増員参加し、活躍します。
再委託の制限がこの辺りまでで、4次請け以降の存在は割とイレギュラーな要素を含むケースになってきます。(4次請けの会社から3次請けのチームに派遣契約で参画し、3次の社員のテイでふるまうなど。 ※派遣先の準社員のような扱い)
と言う訳で、いわゆる【SI商流の元請~3次】の領域で仕事をしている人に『多重請負構造って今もあるんですか?』と質問すると、『無いよ?』と言う返答が帰ってくることになります。契約が請負でも準委任でも変わりません。
SI商流の案件は、IT業界全体で見てもかなりの物量となり、IT業界内でのシェアもかなりの規模となる訳ですから、彼らが特に恵まれたレアケースと言う訳ではありません。事実の上でも、本人たちの認識の上でも、『ふつう』がこれという感じです。
『無い』の、外側の話
頭数が必要なのは特にアプリ開発の領域でして、チーム規模ではない需要もあります。そんな『原則の外側』の例外的なケースとしては下記のようなケースが考えられます。
- 調達難易度が高すぎる (SAPとかたぶん)
- チーム戦規模ではない依頼 (PMOとかインフラとかもたぶん)
- 不人気過ぎて人が集まらん (炎上とか遠方の常駐とか)
SIerも、自社ルールで制限つけて人員不足になって、肝心の顧客への責任が果たせませんとかでは、優先順位がオカシイですからね。必要であれば原則の外の調達も行われます。上記のパターンなんかはよくあるんじゃないでしょうか。
ただし、『違法状態』でOKという話ではありません。
単独の準委任作業者をアサインすることが即、偽装請負・労働者派遣法違反となるわけではありません。委託者が受託者の労働者に対して直接指揮命令されている状態がアウトとなります。
詳しくは参考にしたサイトをどうぞ、業務委託契約書の達人(運営:小山内行政書士事務所)
『直接指揮命令せざるを得ない状態。』を、ITあるあるなケースで言いますと、『ロースキルSESの1名常駐』ですね。
自律で判断し、受注した業務の善管注意義務を果たせるレベルの専門性が無い、または主体性が無い人物の場合、一名で契約しますと違法状態になる可能性が高く。このレベルの人材1名で準委任契約・請負契約で直接発注をすると言う事は、商流が高いほど発生しづらいという事になります。
また、十分な専門性を有する優秀なエンジニアを、極端な多重派遣状態にしてアサインするまともなベンダーがいるかと言うと、まずいないと思います。(単価以前に、自社の社員から会社の格や方針を疑われるので、まずやらない)
やはり、現実的には『無い』の外側の世界であっても、下記の画像範囲内での再委託か、せいぜいフリーランスが3次と直接契約するくらいが限度となってくるのではないかと思います。

2.『あるっちゃ、ある』側の話
では、ここまでの話とは違う目線。サムネ画像の多重派遣状態が起きやすい側の、構造・条件の話をする。

発注者・受注者ともに条件がそろう必要があるので、ひとつひとつ説明していこう。
●『多重派遣の発注者』になりうる条件
まず、SI独自の規制がないところ。
『非SIerの商流』であること
また、大手のメーカーや、一部の大手ゲームパブリッシャーなど、
『派遣契約以外NG』の商流ではないこと。
つまり、内製化エンド・Webサービス・上記以外のゲーム屋さん・受託会社などが発注者となる場合、多重派遣発生の『発注者側の条件が満たされる』と言うことになる。
当然、会社によっても違いがあるが、コレらの発注企業は[外注人員を社員の様に使いたい](管理が要らないレベルの人材のみ単品派遣してほしい)と言うスタンスの会社が多く。所謂(箱売りをしたい)2次3次のソフトウェアベンダーとの相性がイマイチである。その為、準委任で派遣を行う業者。つまり、SES企業のほぼ独壇場となる。(なお派遣会社とは競合)
近年ではSES会社は高還元などの採用トークが増え、営業よりも採用・雇用維持にコストを割く傾向が強く、営業(仲介)を行うSES会社と採用を行う高還元SESへの分業が進んでいます。直接派遣可能な内製化エンド・Webサービス・上記以外のゲーム屋さん・受託会社などを探し出すには営業部隊が必要ですので、営業(仲介)を行うSES会社たちがこれらのクライアントをほとんど握っている状態になります。
営業(仲介)を行うSES会社同士でも人のやり取りを行う事で上記のクライアントの情報はSES業界全体にシェアされ、下層のSES会社でも安定して案件にありつける構造が作られていますが、このシェアの段階で商流が多層化します。
●『多重派遣の受注者』になりうる条件
さて、SES会社であっても、自社で十分な営業能力を確保しており、浅い商流を狙えるレベルの人材を抱えている企業は、その人材をあえて深い商流でアサインする必要がありません。
また、営業力のあるSES会社は他のSES会社から人材を借りてまた貸しする事で利益を得ることもできる為、一人当たりの単価の高い浅い商流を確保する動機があるという感じなので、前述の内製化エンド・Webサービス・上記以外のゲーム屋さん・プライマリの受託会社などの顧客層を直接開拓が可能。 前述の様に、上記顧客層と直接契約でSES派遣をやってる率は高めと言えます。
※なお、この営業(仲介)を行うSES会社は、フリーランスのエンジニアのエージェントを兼ねることが多いです。
逆に、エージェントに人を貸している側のSES会社は、エンドを直接開拓する営業力を持たない会社が多く、採用数重視であるため、単独でSEの役割を果たせないロースキル層(他社の人員の管理下に入る必要がある)のSES派遣が主力である会社が多くなります。ロースキル層の仕事はどこにでもある訳ではありませんので、その決定にはSES業界のシェア機能を万全に利用する必要があります。
つまり、他社の営業力に依存した採用メインのSES会社所属。または、ロースキル専門のSES会社所属、または、SES会社所属かつ本人がロースキルである場合、下記の図の様に、商流が深くなりやすいポジションに位置していると言えます。

おもしろいのがフリーランスで、エージェントに直接登録しますので、図中の『SES1』と、商流上は同格です。『商流が深いSES会社』に在籍している場合、フリーランス化で商流を浅くすることができたりします。
何回転職しても多重派遣の底なんじゃが。って場合
ふつうは無いと思うのだが、考えられる『ハマるパターン』としては、商流が深いSES会社特有の採用トークに毎回引っかかってる人。とかじゃないかなと。
商流が深い会社特有のトークってなんやねんと言うと、『深い商流を良しとしているから使える強み』みたいな部分になるね。例えば、
・いつでも自由に撤退調整するよ。
いやこれ、直接やってたら客に恨まれるよね。出禁あるよね。営業に投資をして、金と時間をかけて、せっかく得た商流を、エンジニア側のワガママでいつでも潰してOKよ!って仕組みにしないよね。
間に他のSES会社やエージェントを挟むからこそ、使えるトークなんである。
一番上のSES会社(上図で言えばエージェント)は信用にダメージを負うので怒ると思うけど、エージェントから見えてる範囲は所属ではない『SES1』までであり。『SES2』『SES3』はどこの会社かバレないし、別のエージェントを経由することで同じエンドの案件に参画することも可能。 商流深いと、客に対してやらかした時のコストが皆無。なんだな。
つまり、商流上げる気が無い会社特有のトークと言う事になります。
・案件はエンジニアが選択できます。
ぶっちゃけ一般的なSESはほとんどこの方式で、さほどたいした特徴ではない(商流が深いSESの時点で、目の前には体制化の需要は無いので、ほとんどのケースで案件選択はできる)のですが、
常に個々のエンジニアがそれぞれの方向で案件を探すとしたら、チャンスがあったとしても『会社対会社』の、チーム規模前提の話は難しくなるわけで、これも商流を上げる気が無い会社特有のトークという事になります。
・めちゃくちゃ採用ハードルが低い
やらかしコストが皆無だからこそ、採用のハードルもめちゃくちゃ低く設定できる。
設計できますでアサインしといて設計はできませんとか。実は経歴偽装でしたなんて話でもノーコストである。ロースキルほど採用しやすい(他社が採用避けるので)こともあるので、この手の会社は一気に大きくなる。とくに経歴偽装はスキル不足でも決定できる、待機が減る、売上が高めになる。など、この手の会社と相性が良い。次項の還元率トークとも相性が良い。
この手の会社でしか内定が出ない状態だとしたら、経歴書か希望条件面でかなり詰んでいると考えられる。
・高還元
個人の売上と給与が連携しており、マージンが少ない。みたいなやつだね。
前項でも語りましたが、本当にマージンが少ないとしたら、イコール、営業部隊に投資していないと言う話になるので、普通に考えたら商流は深い。
また、売上の高さをウリにしている訳ではないことに注意。還元『率』が高いって話だからね。
売上を比較されると困る。だから『率』の勝負をする。営業コストをかけていないので率が高くても大丈夫。というスキームだ。
実際には低マージンでも派遣契約メインの会社とか、営業頑張る会社もあるようなので、高還元=商流深い、で確定と言う訳でもない。あくまで傾向の話だね。
まとめ
ここまで書いたが、いずれの条件も『フリーランスで独立』で容易に実現できてしまうものでもあるので、働き方は変えたくないが、商流も浅くしたいという事であれば、フリーランスで独立してしまうのが良いかもしれない。
案件選択や撤退は完全にフリー本人の判断。
還元率は100%
開業届を出せばフリーなので、採用ハードルなどもない。
歳とったら仕事なくなるのも一緒だから、リスクも一緒。
あんましいないと思うけど、多重派遣の底にハマっちゃって困ってる人は、検討してみてもいいかもしれないね。
書いた人…寺野 克則
技術的な話もするのでエンジニアと思っている人が多いけれど、実際には営業系の経歴。(Twitterも【寺野 克則(ITだけど営業視点のアカ)】と、営業系を押し出しているのに。サムネ画像の印象が強すぎるのか。) 商品は【会社の技術】なのだから、商材を知らなすぎる営業ってふつうはあり得ないんだよ。論外。 ITには20年くらいいて、その前は法人向け通信機器販売。アレ系。 転職回数がめちゃ多く、それによりさまざまな業態からIT業界を見ることに。サービス・人材派遣・人材紹介・SES・ソフトハウス。 派遣で工場行ったこともあるよ。 リーマンショックがトドメとなり、営業としてまっとうな企業に正面から入社できる確率よりも、自分で作った方が確率高い(リスクも低い)なってことで起業。 業界の知見だけはあるのでそれを活かしてWantedlyブログやTwitter。まあまあバズったのと、ほかにもいろいろで、自前ブログに記事を載っけていくことにした。

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